A feeling of a partner
「それにしても沢松君ってマメだね〜〜ずっと兄ちゃんの世話に走ってるじゃない。」
「あ?」
朝練習の終了時、兎丸はいきなり話を切り出した。
「何だよ、いきなり。」
「だってさ、さっきもフェンスのとこに来てたよ?
兄ちゃんの調子を見に来てるみたいでさ。」
「まるで猿野くんのトレーナーみたいっすね、沢松君。」
子津も同調してきた。
伊豆の合宿にまで来て、天国の特訓につきあっていた沢松の事を思い出したのだろう。
だが、天国はこともなげに言った。
「だって〜あいつはオレのドレイだし〜。」
「そんなことを言っていると彼に愛想を尽かされますよ、猿野くん。」
するとこちらも世話好きのキャッチャー、辰羅川が口をはさんできた。
「沢松君の友情を大切にしないといけないのでは?」
辰羅川の諫める言葉は真剣だった。
誰よりも友人を大事にしている彼だからこそ、そう思うのだろう。
天国はそんな彼を見て小さく微笑んだ。
「いんだよ、それで。」
「…猿野くん?」
「うっわー兄ちゃんひっどーい!尽くさせてそれ?」
「ほっほっほ、明美は誰にも縛られたりしないのよv」
「うわーーっ!猿野くん朝からセーラーは勘弁っすよ!」
「……。」
「辰?どうした。」
「いえ…。」
辰羅川はかわされた質問と、彼の答えにどこか違和感を抱いていた。
まだ大きくはないだが確かな、いつもと違うその瞬間を。
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その日の昼休み、辰羅川は図書室に来ていた。
読書の好きな彼としては意外だが、あまりここには来た事はなかった。
すると、そこに見覚えのあるオールバックの頭が眼に入る。
チームメイトの天国の親友、沢松健吾だった。
「えー…っとスライダーの軌道の捉え方…。」
どうやら野球の勉強をしているらしい。
少し自分に似ているかも、と辰羅川は彼を見て思った
「感心ですね、沢松くん。」
「え?おう、モミちゃん!」
声をかけると、沢松は明るく返してきた。
「モミちゃ…;。いえ、その呼び方は…。」
「ははっ、冗談だって辰羅川。何か用か?」
気さくな受け答えに、辰羅川は少し驚いた。
だがあけっぴろげな天国の親友だから、そうであってもおかしくはない。
そういえば彼と一対一で話すのは初めてだったように思う。
意外と相手の事を知らなかったんだな、と辰羅川は実感した。
辰羅川の中で、沢松の印象が少し変わった。
「いえ、君を見かけたものでね、挨拶しないのもどうかと思って。」
「律儀なやっちゃな。ま、挨拶してくれんのはいいけどよ。」
「どういたしまして。」
「それにしても昼休みまで猿野くんの為に野球の勉強ですか?」
たわいない少しの会話をはさみ、辰羅川はその質問を口に出した。
肯定の言葉がでる事を疑いもしなかった。
しかし。
「…まあ、どうかな…。」
「は?」
曖昧な返答に少し調子を崩されたように感じた。
「猿野くんの為じゃないんですか?」
そう再度聞くと。
沢松は少し俯いて、小さく呟いた。
「…オレが悔しいから…あいつの知ってること…………のは…。」
その声は、辰羅川には一部聞き取れないところがあった。
「え?何と言われました?」
「いや、何でもねーよ。」
「?」
沢松はごまかすように明るく笑う。
その時、辰羅川の頭に今まで疑ったことのなかった問いがよぎった。
そしてそれはそのまま、口をついて出たのだ。
「…沢松くん…猿野くんは友達ではないんですか?」
言ってしまってから気づいた。
そんなはずはないのに。
だって彼らはいつも一緒にいるのに…。
かすかな妬みすら感じてしまうほどに。
変なことを、と謝罪するつもりで辰羅川は沢松の顔をもう一度見た。
すると沢松はまっすぐにこちらを見て、言った。
「アンタと犬飼みてーな関係じゃありえない。
そーゆーこと。」
「え?!」
「じゃな。」
沢松は広げていた本を手に取ると、そのままカウンターへ持っていった。
「沢松くん…?!」
その言葉に、応えるものは既にいなかった。
To be Continued…
早めにできました1話目です。自分的には驚異的。(おい)
いちお話は最後まで決まりましたので、頑張って書きますね。
なぜか出張るたっつん。彼には少し動いてもらいます。
河豚様、もうしばらくお待ちくださいませ。
本当にすみません!!
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